謂ふ。

2002年12月5日
――それがうれしくて、なにか礼を言わなければいけないとわかってはいた。
だが、いくつもの感謝が胸の中で渦巻いているのに、
肝心の言葉だけは喉の奥で冷たく凝って、どうしても出てこようとはしなかった。
ひどい焦燥感が彼女の手と足を小さく震わせて、
それでもなお声は出なかったから、
仕方なく精一杯の力で彼を抱きしめ、
ひたりと目を合わせ、それでなんとか自分の気持ちを伝えようとした――

呼応。

2002年11月28日
切なく震えた吐息に貴方の名前を乗せて囁いたら
たとえばこんな冬の夜でも、貴方は振り向いてくれて
それが嬉しくていつも甘えてしまうんだと云うことに
実はたった今気付きました。
ありがとう。

切々。

2002年11月23日
「寒いね」と置いた手の行き場所がなくなる午前二時。

深々。

2002年11月20日
「寒いね」と置かれた手のぬくもりが放しがたい雪の夜。

狐火。

2002年11月10日
祭りの夜には喧噪と霊力に惹かれて、死者が舞い戻る。
僕の手の中に収まった小さな炎は、祭りが終わっても離れようとしない。
妙なものに気に入られる……気味が悪いということもなかったけど。
誰もいなくなった広場の真ん中で胡座をかいて、
頼りなげに震える魂に、僕は問いかけた。
「どこから来たんだい?」

 年が明けて最初の新月の祭りは、死者への鎮魂だ。

プワゾン

2002年11月8日
血の滴る傷口を抉り 血管を巡って脳を冒す
吸い込んだ気道を焼いて 肺を燃やし
振り上げた剣さえ 浸食されて

毒の香りに 溺れました。

こぼれるちいさな、

2002年11月5日
指先からこぼれてしまいそうな愛情を
全部あなたに送ることができたら
この狭い大地の上で
空を見上げることもなくなるのだろうか。

いつだってわたしは置いてきぼりなのね?

アンデット。

2002年11月4日
君を 咎められるような立場じゃないから
唯々 愚かな恋の躯は今夜も起き上がってしまう
その 指先で銃弾を撃ち込んで終わらせてくれますか?

Das Rezept des Schlafes

2002年11月3日
 Sain goes with running where is especially quiet and people aren’t to pay attention.

That place isn’t known, but a few instructors and a few upper-class students and he and his close friends--Ereonor and Keith, Roy--know there.
 But now they cannot have visited there.
 Because today is weekend, mostly students have gone out to the downtown.
 However, Sain has stayed school, because he has other one taken-class.
…天に架かる橋があれば、墜ちても構わないから登っただろう。
この背中に羽根があったら、千切れてもいいから羽ばたいただろう。
足が縺れても爪が剥がれても涙が枯れても全部捨てて行っただろう。

あなたに、一目会うためだけに。

Twinkle Star.

2002年10月31日
小さく頼りなげに瞬いて 星がひとつ落ちました
それを見て 子どものように願い事をしました

愛してくれなくてもいい
どうか僕の傍に いつまでも居てくださいと

我が侭だと 神は嘲るでしょうか

Der alte geist.

2002年10月30日
 今日は市街に花はない。
代わりにいくつものジャック・オ・ランタンが軒先に釣られ、
道行く人々は大人も子どもも奇妙な姿でそれを持ち歩いている。
箒を持った魔女・魔術師、そのお供の黒猫、
真白いシーツを被ったゴースト、仮面を被った死神……
「まったく、この騒ぎじゃ死人が本当に蘇ってもわかりゃしないわね」
 パンプキンパイやキャンディの甘ったるい香りの渦を、
エレノアは顔をしかめてそう評した。
セインは苦笑して、彼女の手を引く。
「ほら、いい加減楽しみなよ。
向こうでダンスがあるんだ……」
 仕方ないわね、と呟いた声とは裏腹に、
エレノアの顔はひどく優しく微笑んでいた。

ベツレヘム。

2002年10月29日
吐息を鎮める場所もないのだけれど
拙い歩みは地を這うようで 濡れた手を温めてくれるなら
歪んだ視界にあなただけ遠く映ること どうか赦してください。

一息で飛んで行きたいのだけれど 
この縺れた足取りでさえ 愛しいと言ってくれるなら
醜く涙と素顔を晒して歩くこと どうか赦してください。

腕にたくさんの原罪を抱えたままのこの歩みが
どうか止まらないよう祈ってください。
受け止めるから。

His truth.

2002年10月28日
真実を語るには勇気が足りず
嘘を吐くほど優しくもなれない

喉元に刃を突き刺すには冷酷になれず
見逃すほどにこの手が綺麗なわけではない

抱きしめるには時間が経ちすぎて
突き放すほどにこなれていない

逃げ出すには未練がありすぎて
留まるほどには強くない

君の傍らに立ち竦むだけでもいいのなら
それが僕の真実。

And he remember the night.

2002年10月24日
冷えた腕にぬくもりをかき抱いて眠る夜に
腕の中の彼女は貴女ではないのだけれど
思い出さずにはいられない時があるのです。

裏切りではありません。
ただ、どうしようもなく貴女を思い出す夜が俺にはあるのだと――
それだけ、伝えたかったのです。
心の伝え方を知らなくて 二人揃って言いたいことも言えなくて
だからずいぶん回り道をしたように思う
この道で間違っていないんだと 胸を張る自信もなかったけど
今このことだけは 誰にでも誇れる
君が、好

宛名のない手紙。

2002年10月16日
会えなくなってどのくらい経つのだろうと
昨日 指折ってみました
数えられなくなって やめてしまったけれど
今でも時々 あなたの笑顔を夢に見ます
もしもそのまま傍にいてくれたなら
気付くことはなかったのかもしれません
でも 今なら言えるんです
優しさもひたむきさも 両手にあふれるほどあること
伝えきれなくて ごめんなさい。

P.S この間、昇進しました。
喜んでくれますか?

権力への階段。

2002年10月15日
信じることにはもう 疲れました
神様 あなたはこの世を見捨てたのだから
運命 気紛れな糸車から彼を弾き出したのだから
奇跡 一瞬でわたしを見捨てたのだから

祈りを捧げたくても 祈るものすら見当たらなくて
手当たり次第にぶちまけた怒りを 収めてくれる人もいない
そして憐れみや微笑みが 代えって痛いだけのものだと気付くのに
時間は必要いらない

やっと見つけたものを奪い取ったのは

誰だったのか……

刃の前夜。

2002年10月9日
机の上の 真っ白な錠剤
ピルケースの中の 真っ赤なカプセル
ポケットに入れた 薄緑の液体
オブラートに包んだ 青い粉
全部まとめて飲み込んで

出陣。

引きずられた誇り。

2002年10月6日
石畳の上を 誇りが軽い音を立ててどこまでも着いてくる


僕の剣だった。

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