日曜日は特別な日。

 その前の夜に、亡くなった母さんがホットケーキを作ってくれる夢を見たから、休日のくせにめずらしく早く起きてきたダニエルにホットケーキが食べたいなとねだってみた。日ごろあまりあれがほしいだのこれがほしいだのと言わないカタリナがほとんど初めてねだったからだろう、少しだけ困ったように笑って、じゃあ作るかとダニエルは冷蔵庫を開けた。
 元々几帳面で手先の器用な人だからきっと料理はうまいだろうと思っていたけれど、慣れないながら材料や道具を出してきて時々これでいいのかとうかがうようにこちらを見てくる妙に子どもじみたしぐさには、カタリナも思わず吹き出した。何かひとつ間違えたくらいでは、料理なんてそれほど壊滅的なことにはならないものなのに。それでもどこで買い込んできたのか、ギャルソン風の黒いエプロンをぴしりと身につけた姿は、なかなか彼に似合っていた。
 分量をきちんと量って分け、大きな銀色のボウルに雪のようにきれいな小麦粉をふるって落とし、片手で器用に二個の卵を割り入れる。それに小さめのコップ一杯のミルクをさらに加えて、泡だて器で卵の黄身と白身を丁寧につぶしながら手早く種を混ぜてゆく。高さの合わないシンクからボウルを抱え上げるところなど、なんだかひどく堂に入っていた。
 熱したフライパンにバターが溶ける音と、その香りが食欲を刺激する。とろりとしたわずかに甘い匂いのする白い種がフライパンに流し込まれると、きれいなまるい形はゆるゆると広がってぷつりと気泡が弾けた。焼けるまでの間にとコーヒーを入れ始めたダニエルの黒いエプロンは小麦粉で白くまだらがついていて、彼自身がさっぱりそれに気づいていないのがなんとなく可愛らしかった。

 少しずつ大きさと焦げ方の違うホットケーキが四枚焼き上がり、まるく、きれいに焼けた二枚が載っていた皿がこちらに押しやられると、カタリナは少しとまどった。見上げた視線を笑って受け止めたダニエルは、お前が食べたかったんだからとてこでも動かないふうだった。
 まだあつあつのホットケーキにバターを載せるとそれはとろりととろけ出し、メープルシロップをくるくるとかけまわすと金色の糸はホットケーキの上で複雑な線画を描いた。それだけで思わず口元がゆるんできて、向かいに座ったダニエルはお前顔崩れすぎとまた笑った。

 今ならきっと昔絵本で読んだ天井まで届くホットケーキだって食べられるなんて思うのは、きっと今日が日曜日だからなのだろう。

コメント