お前のことは『光を与える』と呼ぼうか、と六歳で彼女がついた師匠は言った。それはただ便宜上のことであって、彼女は師匠がそうであり、父や母や祖父母がそうだったようにあくまでもカーヒンに過ぎなかったが、それでも何かその呼び名を天啓のように感じたことだけは覚えている。
師匠の下ですべての術をおさめたカーヒンは、王族か、それに近い高位の貴族や聖職者の護衛として、たったひとりの主に仕える。
仕えるべき主はジンが教えてくれるものだよ、と師匠は言ったが、『光を与える』と呼ばれていたカーヒンには、何人の王族、貴族、聖職者に会おうとも、みずからの主には出会えなかった。それは不思議な、理性はもうこの方でいいではないかと思うのに、本能が頭を垂れることを拒否するような、そんな感覚だった。
「師匠、私の主はどこにいるのだろう」
「もうすぐだよ、ゆっくりお待ち」
長年せっかちな彼女をそう諭し続けてくれた師匠が亡くなったのは、高貴な方の護衛を選ぶから、と王宮に呼ばれる前日のことだった。葬儀どころか、哀しむだけの間すらもなかった。師匠の家は王宮から遠く、正装を身にまとい、習い覚えた妖術を使って首都へと移動するのが精一杯だった。
そのひとが現れた瞬間――広間はぴんとした静寂につつまれた。その場に集ったすべてのカーヒンたちが、異国の王女をとまどうように見つめていたように思う。
彼女とて、とまどわなかったと言えば嘘になる。だがそれよりも強く、ただ理解していた。この異国の王女こそ、彼女が仕えるべき主なのだと。
「――生涯を貴女に仕え、御身お守りすることを誓います」
深々と下げた頭をすぅっと上げ、たった今誓約を済ませたばかりの主を見やると、その尊いひとは盲いた目をそれでもまっすぐに彼女に向け、うっすらと笑んでいた。ただ王女に目を向けてもらったというそれだけで、打ち震えるほどの快感であり、幸福であるように彼女には思えた。
「ありがとう。良く仕えてくれることを願います」
軽く伏せられたうつくしい青い目がものの姿かたちをとらえないのだなどとは、どうしても思えなかった。
『光を与える』と師匠は彼女を呼んだ。それはこの盲いた王女に仕えるようにというジンからの天啓だったのだろうと、年若いカーヒンは思った。
師匠の下ですべての術をおさめたカーヒンは、王族か、それに近い高位の貴族や聖職者の護衛として、たったひとりの主に仕える。
仕えるべき主はジンが教えてくれるものだよ、と師匠は言ったが、『光を与える』と呼ばれていたカーヒンには、何人の王族、貴族、聖職者に会おうとも、みずからの主には出会えなかった。それは不思議な、理性はもうこの方でいいではないかと思うのに、本能が頭を垂れることを拒否するような、そんな感覚だった。
「師匠、私の主はどこにいるのだろう」
「もうすぐだよ、ゆっくりお待ち」
長年せっかちな彼女をそう諭し続けてくれた師匠が亡くなったのは、高貴な方の護衛を選ぶから、と王宮に呼ばれる前日のことだった。葬儀どころか、哀しむだけの間すらもなかった。師匠の家は王宮から遠く、正装を身にまとい、習い覚えた妖術を使って首都へと移動するのが精一杯だった。
そのひとが現れた瞬間――広間はぴんとした静寂につつまれた。その場に集ったすべてのカーヒンたちが、異国の王女をとまどうように見つめていたように思う。
彼女とて、とまどわなかったと言えば嘘になる。だがそれよりも強く、ただ理解していた。この異国の王女こそ、彼女が仕えるべき主なのだと。
「――生涯を貴女に仕え、御身お守りすることを誓います」
深々と下げた頭をすぅっと上げ、たった今誓約を済ませたばかりの主を見やると、その尊いひとは盲いた目をそれでもまっすぐに彼女に向け、うっすらと笑んでいた。ただ王女に目を向けてもらったというそれだけで、打ち震えるほどの快感であり、幸福であるように彼女には思えた。
「ありがとう。良く仕えてくれることを願います」
軽く伏せられたうつくしい青い目がものの姿かたちをとらえないのだなどとは、どうしても思えなかった。
『光を与える』と師匠は彼女を呼んだ。それはこの盲いた王女に仕えるようにというジンからの天啓だったのだろうと、年若いカーヒンは思った。
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