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ああ、ああ。どうしてこんなに世界が愛しいんだろう?
カーラジオからは音楽が流れていた。静かな音楽だ。誰もその曲名を知らなかったが、彼らは素直にその音楽を、うつくしいと感じた。それから、ひとりが、最期の日に音楽なんて洒落てる、と少しだけ笑った。
それからしばらく、車内は静かだった。規則正しい彼らの呼吸の音だけが、音楽に溶け込んで聞こえていた。
やがてラジオの音楽がとぎれ、ニュースが始まった。アナウンサーは、国連が、本日をもって世界中の紛争が終結したと発表した、と告げた。誰かが、世界平和は実現するんだね、と言った。別の誰かが、もっと早くこうなれば良かった、と言った。また違う誰かが、宇宙人の襲来みたいなものだな、と笑った。
ニュースは多くを告げず、その日世界中で死んだ人々の数を国別に放送すると、再び音楽を流した。彼らは世界の人口が、一世紀前の三分の一にまで減ったことを知った。みんな死んでいくね、と誰かが言った。世界平和は実現したよ、と違う誰かが言い、しばらくして、先ほどと同じ誰かが怖い、とだけつぶやいた。怖くないよとそれをなだめた誰かが、ずっと抱きしめててあげる、と腕を伸ばした。
カーラジオの音楽は終わりを知ることがないかのように、ずっと同じ曲だけを流している。放送局で、ディスクをエンドレスにしてあるのかもしれない。音楽に溶ける呼吸音の中に、ひとつ嗚咽が混じった。ごめんね、ごめんね、と誰かが泣いた。それが何に対しての謝罪なのか、彼らはみんな知っていた。だから、大好きだったよ、ずっとここにいたかった、と誰かが言った。戦争なんて終わらなければ良かったね、と泣き声を抱きしめた誰かが、泣きながら言った。
やがて泣き声は消え、車内から音がなくなった。カーラジオの音楽は流れ続けていたが、もはや混じり合う呼吸音はひとつもない。
世界中のあらゆる場所で、屍の上に静かに音楽が流れていた。
カーラジオからは音楽が流れていた。静かな音楽だ。誰もその曲名を知らなかったが、彼らは素直にその音楽を、うつくしいと感じた。それから、ひとりが、最期の日に音楽なんて洒落てる、と少しだけ笑った。
それからしばらく、車内は静かだった。規則正しい彼らの呼吸の音だけが、音楽に溶け込んで聞こえていた。
やがてラジオの音楽がとぎれ、ニュースが始まった。アナウンサーは、国連が、本日をもって世界中の紛争が終結したと発表した、と告げた。誰かが、世界平和は実現するんだね、と言った。別の誰かが、もっと早くこうなれば良かった、と言った。また違う誰かが、宇宙人の襲来みたいなものだな、と笑った。
ニュースは多くを告げず、その日世界中で死んだ人々の数を国別に放送すると、再び音楽を流した。彼らは世界の人口が、一世紀前の三分の一にまで減ったことを知った。みんな死んでいくね、と誰かが言った。世界平和は実現したよ、と違う誰かが言い、しばらくして、先ほどと同じ誰かが怖い、とだけつぶやいた。怖くないよとそれをなだめた誰かが、ずっと抱きしめててあげる、と腕を伸ばした。
カーラジオの音楽は終わりを知ることがないかのように、ずっと同じ曲だけを流している。放送局で、ディスクをエンドレスにしてあるのかもしれない。音楽に溶ける呼吸音の中に、ひとつ嗚咽が混じった。ごめんね、ごめんね、と誰かが泣いた。それが何に対しての謝罪なのか、彼らはみんな知っていた。だから、大好きだったよ、ずっとここにいたかった、と誰かが言った。戦争なんて終わらなければ良かったね、と泣き声を抱きしめた誰かが、泣きながら言った。
やがて泣き声は消え、車内から音がなくなった。カーラジオの音楽は流れ続けていたが、もはや混じり合う呼吸音はひとつもない。
世界中のあらゆる場所で、屍の上に静かに音楽が流れていた。
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