洗濯は二日に一度。本当は毎日やりたいところだが、家事嫌いの同居人が元々持っていた洗濯機はむやみやたらと巨大で、そうそう頻繁に動かしていては電気代の無駄になってしまう。
 朝食の後に同居人を送り出し、洗濯機のスイッチを入れる。終了のブザーが鳴るまでの一時間あまりを勉強にあてた後は、さっさと裏庭に干してしまわなければならない。彼女には他にもやらなければならないことがたくさんある。
 夕方に、干しておいた衣服を取り込む。夕食を終えてテレビを同居人と一緒に見た後は、いよいよ大仕事だ。同居人はいくつかの仕事を手伝ってくれるが、こればかりは彼女も彼に任せたことはない。この家に二人で暮らしはじめたころからの、それは不文律だった。

 シャツにアイロンをかける方法を、そんなのは簡単なのよと笑って教えてくれた母に感謝している。なぜなら同居人は襟と袖以外の場所にアイロンをかけることがひどく下手で、この仕事はいつでも彼女のものだからだ。
 しゅ、とかすかな蒸気を立てながら、カーキ色のシャツからはきれいにしわが消えてゆく。たまにこの光景を見かけると同居人は感心してため息をこぼすが、そんな彼を、笑いを噛み殺しながらながめるのがとても好きだ。
 奇妙な優越感にすぎないのだろう。同居人よりも勝っている部分があることで、彼を支配する唯一の手綱を手に入れた気分になっている。わかってはいても、他人が容易に踏み込むことのできない場所に自分がいるのだと実感できることは、彼女にとっては大きな喜びだった。
 ぴしりと型のついたシャツを、そのまま店頭に並べても違和感がないほどの几帳面さでたたみ、同居人に手渡す。ありがとう、と屈託のない、純粋な尊敬のまなざしとともに返される言葉は、彼女の誇りだった。

 きちんとアイロンがけされたシャツは、彼女が彼の家族であることの明確な証なのだった。

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