鈍痛。

2004年11月13日 長編断片
 鈍い痛みを、抱えている。

 薄暗がりがそこかしこにわだかまる一室で、女はベッドに膝を抱え、うずくまっている。
 耐えられる。いろんなことに耐えられる。だがだからと言って、耐えなければならないのか。そう自問して、女はうめいた。耐えなければならないのなら、彼女自身の弱さは一体どこへ行けばいいのだ。
 否、どこへも行くべきではないからこそ、ここにあるのか。この弱さを、鈍痛を力強く抱いて溶かしてくれる腕を、これは自分のものではないからと押し退けて笑ったことを、女は忘れてはいない。己の予定調和な行動に、いまさらながら吐き気がした。
 抱えた足にぎちりと爪を立て、皮膚が破れる感触を戒めのように刻み込む。背筋に走る怖気が、逆に妙に心地よかった。物理的な鈍痛が、精神的な鈍痛を凌駕してゆくような気がした。もしそうならば、うれしいのだけれど。
 しわがれた声で男の名を呼んだ。手の届く場所で呼べば、今も男は振り返ってはくれるだろう。昔からそうだった。だから自惚れていた。この男の隣に立ち、視線を合わせることができるのは自分だけなのだと。なんと愚かなのか、とかつての己に歯がみした。男がそのようなことを、一度でも言ってくれたか? 否だ。ならば期待すべきではなかったのに。
 再び、男の名を呼んだ。
 耐えられる。いろんなことに耐えられる。だから耐えなければならないのだろう。彼女自身の弱さも含めて。

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