あとどのくらい、君の傍にいられるんだろう。否、――どのくらい、傍に置いていてくれるんだろう。
物事に執着するのはごく久しぶりのことで、なるほど当初は一体何十年か、ひょっとしたら何百年かぶりの感覚にとまどったものだが、一度手に入れてしまえば彼は手放しがたい存在だった、二つの意味で。
一つ目の意味はごく簡単でわかりやすい。つまり彼女と彼は共生関係にある。バケモノの彼女に血肉を提供する殺人鬼と、殺人鬼の犯罪的証拠を残らず咀嚼するバケモノの二人組は、正直なところ相性のいい組み合わせではあった――その考えがうぬぼれではない、と思える程度には。
ことがそれきりだったなら、自分たちはもっと簡単だったのだろうと彼女は思う。
問題は彼が手放しがたい存在となってしまった理由の二つ目で、しかも比率的にはこちらの方が重視されがちであることだ。
――愛している、と考えるようになったのは、さていつのことだったか。三年前に出会った当初から、現代社会ではなかなかお目にかかれない、ざらついて乾いた砂のような雰囲気が好きだった。
私が食べるから、殺していいよ。そう言った時の彼の、なんとうれしそうだったことか。余人には理解のできない渇きを、ようやく彼は満たすことができたのだ、彼女というパートナーを得て。
少なくとも二ヶ月にひとり、多ければ一ヶ月にふたり。共生を始めてからの彼は、日に日に彼女好みの男に変化してゆくようだった。かつての彼が冴えない様子であったのがその渇きのせいなのだとすれば、人間というものは実にもったいないことをする。この男は、こんなにも魅力的なのに。
彼に傾倒してしまった今、その身体を喰ってしまうことはたやすいが、そうするには愛情が深すぎる。だから、彼の腕に抱かれながら、彼の隣でその寝息を聞きながら、二人で街中を歩きながら、あるいは彼の殺した人間を喰らいながら、考えている。
あとどのくらい、君の傍にいられるだろう。あとどのくらい、君は生きているんだろう。それよりもむしろ、……どのくらい、傍に置いていてくれるんだろう。君はたしかによりこちら側に近い。けれどそれでも君と同じではないバケモノを、いつまで?
「大好き、真司」
自分は、うまく笑えているんだろうか。
物事に執着するのはごく久しぶりのことで、なるほど当初は一体何十年か、ひょっとしたら何百年かぶりの感覚にとまどったものだが、一度手に入れてしまえば彼は手放しがたい存在だった、二つの意味で。
一つ目の意味はごく簡単でわかりやすい。つまり彼女と彼は共生関係にある。バケモノの彼女に血肉を提供する殺人鬼と、殺人鬼の犯罪的証拠を残らず咀嚼するバケモノの二人組は、正直なところ相性のいい組み合わせではあった――その考えがうぬぼれではない、と思える程度には。
ことがそれきりだったなら、自分たちはもっと簡単だったのだろうと彼女は思う。
問題は彼が手放しがたい存在となってしまった理由の二つ目で、しかも比率的にはこちらの方が重視されがちであることだ。
――愛している、と考えるようになったのは、さていつのことだったか。三年前に出会った当初から、現代社会ではなかなかお目にかかれない、ざらついて乾いた砂のような雰囲気が好きだった。
私が食べるから、殺していいよ。そう言った時の彼の、なんとうれしそうだったことか。余人には理解のできない渇きを、ようやく彼は満たすことができたのだ、彼女というパートナーを得て。
少なくとも二ヶ月にひとり、多ければ一ヶ月にふたり。共生を始めてからの彼は、日に日に彼女好みの男に変化してゆくようだった。かつての彼が冴えない様子であったのがその渇きのせいなのだとすれば、人間というものは実にもったいないことをする。この男は、こんなにも魅力的なのに。
彼に傾倒してしまった今、その身体を喰ってしまうことはたやすいが、そうするには愛情が深すぎる。だから、彼の腕に抱かれながら、彼の隣でその寝息を聞きながら、二人で街中を歩きながら、あるいは彼の殺した人間を喰らいながら、考えている。
あとどのくらい、君の傍にいられるだろう。あとどのくらい、君は生きているんだろう。それよりもむしろ、……どのくらい、傍に置いていてくれるんだろう。君はたしかによりこちら側に近い。けれどそれでも君と同じではないバケモノを、いつまで?
「大好き、真司」
自分は、うまく笑えているんだろうか。
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