Foolish games.
2004年10月2日 交点ゼロ未満 天国よりも野蛮なのに、時々世界はうつくしい。
薄く瞼を伏せて狂ったように一途に快楽を追う男を、いつでも可愛らしいと思う。彼に限らず、男などという生き物は、それほど多くと付き合ったわけではないが大抵がそんなものだろう。男の方は、女にそう思われていることに気づこうともしないが。
くふんとかすかに喉を鳴らして笑うと、彼はうかがうようにこちらを見上げ――身体そのものは自分の上に彼がいるのだから、本当は見下ろしてというのが正しいのだろうが、どことなくその視線は母親をうかがう子どものようだった――、ついばむようなキスをよこした。お礼とばかりにぎゅうと首に腕を回してやれば、名前を呼んでくれもする。決して低いとは言えない、むしろ同じテノールでも高めの彼の声が、好きだ。
別に声に限った話ではなく、東洋人ゆえの細身の身体や、あるいはこれは彼個人の資質なのかもしれないが、ふとした瞬間に垣間見えるこまやかさにこそ、異性を感じた。引く手は数多、とは言わないまでも選り好みできる程度にはいた。だがそれでもなお――彼が良かったのだ。いささか神経質な、おそらくはそれゆえにひどく切れる男が。
だから今が幸せだ。例え世界のどこかで今も戦争が起こっていて、自分たちもその当事者でないとは言い切れず、飢えや病気や災害やその他のもっとひどいことで死ぬ子どもがいて、身近で大切な人の死や苦しみに泣き叫ぶ人々がいることを知っていたとしても、……幸せだ。少なくとも世界の片隅の暗い一部屋には、絶望など転がってはいない。
なんと傲慢で、目の前の明るい欺瞞だけを見つめていることだろう。だけでなく、正義という名の目隠しはすでにほころびて久しく、明日はもはや信じられるものではない。こんなことが幸せだというのなら、相当に病んでいる。
だが、
「俺は、君を愛してる」
あなたがこうしてここにいるのなら、
「ええ。……私も愛してる」
世界はそれだけでうつくしい。
うつくしいすべては恐ろしさの前兆だと、誰かが言った。
薄く瞼を伏せて狂ったように一途に快楽を追う男を、いつでも可愛らしいと思う。彼に限らず、男などという生き物は、それほど多くと付き合ったわけではないが大抵がそんなものだろう。男の方は、女にそう思われていることに気づこうともしないが。
くふんとかすかに喉を鳴らして笑うと、彼はうかがうようにこちらを見上げ――身体そのものは自分の上に彼がいるのだから、本当は見下ろしてというのが正しいのだろうが、どことなくその視線は母親をうかがう子どものようだった――、ついばむようなキスをよこした。お礼とばかりにぎゅうと首に腕を回してやれば、名前を呼んでくれもする。決して低いとは言えない、むしろ同じテノールでも高めの彼の声が、好きだ。
別に声に限った話ではなく、東洋人ゆえの細身の身体や、あるいはこれは彼個人の資質なのかもしれないが、ふとした瞬間に垣間見えるこまやかさにこそ、異性を感じた。引く手は数多、とは言わないまでも選り好みできる程度にはいた。だがそれでもなお――彼が良かったのだ。いささか神経質な、おそらくはそれゆえにひどく切れる男が。
だから今が幸せだ。例え世界のどこかで今も戦争が起こっていて、自分たちもその当事者でないとは言い切れず、飢えや病気や災害やその他のもっとひどいことで死ぬ子どもがいて、身近で大切な人の死や苦しみに泣き叫ぶ人々がいることを知っていたとしても、……幸せだ。少なくとも世界の片隅の暗い一部屋には、絶望など転がってはいない。
なんと傲慢で、目の前の明るい欺瞞だけを見つめていることだろう。だけでなく、正義という名の目隠しはすでにほころびて久しく、明日はもはや信じられるものではない。こんなことが幸せだというのなら、相当に病んでいる。
だが、
「俺は、君を愛してる」
あなたがこうしてここにいるのなら、
「ええ。……私も愛してる」
世界はそれだけでうつくしい。
うつくしいすべては恐ろしさの前兆だと、誰かが言った。
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