時折、人にささやかれることがある。何故あんな女を愛したのかと。
――あなたを愛したことを、間違いだとは思っていない。
政府の高官のみがその存在を知る魔女と結婚したことは、実のところ彼にとってプラスに働いたわけではなかった。むしろそんな男を高位につけることは危険だと判断されたのか、権力や地位からは遠ざけられ、現場仕事ばかりが与えられた――もっとも、そちらの方が性には合っていたが。
それはなるほど己が気に病むことではあるかもしれないが、すくなくとも彼女が気にすることではない。魔女という存在を痛いほどに理解していながら、それでも己の短い一生を彼女とともに在ろうと決めたのは、間違いなく彼自身だったからだ。
それでも女は、泣く。目覚めた朝に、あるいは彼のもどることのできない夜更けに、――私が私でなければ良かったと言って。
あんな女を愛したのは何故かと問われることもあることが事実であるだけに、彼女の負い目は深い。いっそ別れようと言い出さないことこそが、そんなことを言われた日にはこちらが哀しくて死んでしまうかもしれないが、彼にとっては不思議でならなかった。
「別れるなんて許さない。あなたは私のものだ。……そうでしょう?」
だけれどある日問うてみれば、彼女は泣き出しそうな顔で笑って、そうすがりついた。不器用に指先だけを肌に伸ばしてくるその手の、なんと頼りなげで儚いことか――いっそ彼女が魔女であるだけに。
「あなたが言ったんだ、私と結婚してくれって。だから別れない。あなたが後悔しててもかまわない、私があなたを愛してるから」
自分がかけた愛情と同じだけの愛情を自分に求めてはくれない彼女が、少しだけ寂しくそしてどうしようもなく愛おしかった。
――誰が後悔するというのだろう。自分に与えられたマイナスばかりを他人に指摘されて、それでもなお今以上にあなたを求めているというのに。
あなたを愛したことを、間違いだとは思わない。
だから、ずっと傍にいる。いつかそう遠くはない日に、この身が屍になったとしても。
――あなたを愛したことを、間違いだとは思っていない。
政府の高官のみがその存在を知る魔女と結婚したことは、実のところ彼にとってプラスに働いたわけではなかった。むしろそんな男を高位につけることは危険だと判断されたのか、権力や地位からは遠ざけられ、現場仕事ばかりが与えられた――もっとも、そちらの方が性には合っていたが。
それはなるほど己が気に病むことではあるかもしれないが、すくなくとも彼女が気にすることではない。魔女という存在を痛いほどに理解していながら、それでも己の短い一生を彼女とともに在ろうと決めたのは、間違いなく彼自身だったからだ。
それでも女は、泣く。目覚めた朝に、あるいは彼のもどることのできない夜更けに、――私が私でなければ良かったと言って。
あんな女を愛したのは何故かと問われることもあることが事実であるだけに、彼女の負い目は深い。いっそ別れようと言い出さないことこそが、そんなことを言われた日にはこちらが哀しくて死んでしまうかもしれないが、彼にとっては不思議でならなかった。
「別れるなんて許さない。あなたは私のものだ。……そうでしょう?」
だけれどある日問うてみれば、彼女は泣き出しそうな顔で笑って、そうすがりついた。不器用に指先だけを肌に伸ばしてくるその手の、なんと頼りなげで儚いことか――いっそ彼女が魔女であるだけに。
「あなたが言ったんだ、私と結婚してくれって。だから別れない。あなたが後悔しててもかまわない、私があなたを愛してるから」
自分がかけた愛情と同じだけの愛情を自分に求めてはくれない彼女が、少しだけ寂しくそしてどうしようもなく愛おしかった。
――誰が後悔するというのだろう。自分に与えられたマイナスばかりを他人に指摘されて、それでもなお今以上にあなたを求めているというのに。
あなたを愛したことを、間違いだとは思わない。
だから、ずっと傍にいる。いつかそう遠くはない日に、この身が屍になったとしても。
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