あなたを想う いつもあなただけを
愛していると男は一度もささやかなかった。ただひそやかに、暗闇の中で回された腕はおどろくほどに力強く、熱かった。名前だけを呼ばれていたように思う。いつもは呼ばれないその名前こそが、愛しているとささやくことのせめてもの代わりだったのだろうか。
どう言葉にしても伝わらない想いがあることを、自分も男も知っていた。まして言葉少なであるようにとふるまう自分たちに、伝えられるはずもない。だから愛しているなどとは言わなかった。ただ、呼べない名前を、まるで言葉を覚えたての子どものように繰り返し繰り返し呼んだ。――それさえできるのなら、なにも、せめて今一時だけは恐れるものなどないのだとでも言いたげに。
夜の暗闇は重苦しく、雲は月をさえぎって春の嵐がお互いの声をかき消した。月明かりさえもないのならば、見なければいい。その方が罪悪感は少なくて済む。それでも互いに、腕の中にいる相手が確かに求めたひとりであることを愚かにも確かめたくて、だから嵐をかいくぐるように近くで呼んだ。身を寄せ合う獣のように。
恋ではないことを知っていた。ならばそれは愛でしかないはずだったが、愛しているとのたまうことは欺瞞でしかない。何故なら不器用に身体を重ねて名前を呼ぶことしか知らなかった。
――ただ、呼ばれた名前に、
もう二度と届くことのない、そも届けることを目的とされたのかどうかも曖昧な想いがあったことだけは、確かなのだと彼女は知っている。
あなたを愛す いつまでも変わることなく
愛していると男は一度もささやかなかった。ただひそやかに、暗闇の中で回された腕はおどろくほどに力強く、熱かった。名前だけを呼ばれていたように思う。いつもは呼ばれないその名前こそが、愛しているとささやくことのせめてもの代わりだったのだろうか。
どう言葉にしても伝わらない想いがあることを、自分も男も知っていた。まして言葉少なであるようにとふるまう自分たちに、伝えられるはずもない。だから愛しているなどとは言わなかった。ただ、呼べない名前を、まるで言葉を覚えたての子どものように繰り返し繰り返し呼んだ。――それさえできるのなら、なにも、せめて今一時だけは恐れるものなどないのだとでも言いたげに。
夜の暗闇は重苦しく、雲は月をさえぎって春の嵐がお互いの声をかき消した。月明かりさえもないのならば、見なければいい。その方が罪悪感は少なくて済む。それでも互いに、腕の中にいる相手が確かに求めたひとりであることを愚かにも確かめたくて、だから嵐をかいくぐるように近くで呼んだ。身を寄せ合う獣のように。
恋ではないことを知っていた。ならばそれは愛でしかないはずだったが、愛しているとのたまうことは欺瞞でしかない。何故なら不器用に身体を重ねて名前を呼ぶことしか知らなかった。
――ただ、呼ばれた名前に、
もう二度と届くことのない、そも届けることを目的とされたのかどうかも曖昧な想いがあったことだけは、確かなのだと彼女は知っている。
あなたを愛す いつまでも変わることなく
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