泪月。
2004年9月15日 アクア=エリアス(?) 生まれ変われません あなたがいないから この世はひとり
「双子……みたいなものだな、うん」
自らも二つに分かたれたもののひとつであった父は、そう言って香月にとってのいとこを、また彼自身にとっての幼馴染みを表した。
どちらか片方では生きてゆけない。どちらが依存しているのでもない。そう思えるほどのひとつが、感情論ではなくただ事実としてあるのだと言う。だがだとすれば、二つで一対を成す自分たちは、どちらか片方が欠けても生きてゆける双子などより、よほど強い結びつきを持っているのではあるまいか。香月はそう思う。
母が――つまり父にとっての妻が――いなくても、生きてゆける。でも幼馴染みが死んでしまったら、きっと自分は空っぽになる。父は同じ片割れを持つ香月にそんな教えなくとも良いことを教えて、いつか訪れるかもしれないその日に対しての恐れを、娘に抱かせた。
時間も、神も、愛しい人も、なにひとつとしてその空白を埋められるものではない。先と後とで分かたれて死んでしまったのなら、輪廻転生に組み込まれる手前で立ち尽くして待つしかない。お互いが、そういう存在だった。
なぜなのだろう、先に逝ったはずのいとこはけれどまだ来てはいなくて、銀色にきらめく草原で、香月はずっと彼を待っている。
いつだっただろう、ごく最近だったかもしれないし、もうずっと前だったような気もするが、叔父がひとりきりでとぼとぼとやってきたことがある。父は、と問うと、まだ、とだけ答えて、叔父はそのままそこにすわりこんでしまった。なるほど、『空白』というのはこういうことなのだろうと、香月はなんとなく理解した。
父がやってきたのはそれからずいぶんと経ってからのことで、ただ思いの強さでのみこの草原へと足を踏み入れた父は、叔父を見つけるや否や草を揺らす風よりも早くこちらへと駆け寄ってきた。
――時間も、神も、愛しい人も、なにひとつとしてその空白を埋められるものではない。父にとってのその空白を埋めるものの元へ、ただ一直線に。
そうして二人は揃って、神の回す輪廻へと旅立った。次の人生でも彼らはふたつに分かたれるのか、それともひとりの独立した人になるのか、……どちらかといえば、二つになるものたちの運命は、もうずっと決まり切って二つになるような気がしたけれど。
叔父と同じようにその場にすわりこんで、此岸――いや、今や自分のいる方が此岸なのだから、あちらは彼岸になるのだろうか――をぼんやりとながめる。いまだいとこの影すら見えぬあちら側の陽炎に、香月はほぅとためいきをついた。
「双子……みたいなものだな、うん」
自らも二つに分かたれたもののひとつであった父は、そう言って香月にとってのいとこを、また彼自身にとっての幼馴染みを表した。
どちらか片方では生きてゆけない。どちらが依存しているのでもない。そう思えるほどのひとつが、感情論ではなくただ事実としてあるのだと言う。だがだとすれば、二つで一対を成す自分たちは、どちらか片方が欠けても生きてゆける双子などより、よほど強い結びつきを持っているのではあるまいか。香月はそう思う。
母が――つまり父にとっての妻が――いなくても、生きてゆける。でも幼馴染みが死んでしまったら、きっと自分は空っぽになる。父は同じ片割れを持つ香月にそんな教えなくとも良いことを教えて、いつか訪れるかもしれないその日に対しての恐れを、娘に抱かせた。
時間も、神も、愛しい人も、なにひとつとしてその空白を埋められるものではない。先と後とで分かたれて死んでしまったのなら、輪廻転生に組み込まれる手前で立ち尽くして待つしかない。お互いが、そういう存在だった。
なぜなのだろう、先に逝ったはずのいとこはけれどまだ来てはいなくて、銀色にきらめく草原で、香月はずっと彼を待っている。
いつだっただろう、ごく最近だったかもしれないし、もうずっと前だったような気もするが、叔父がひとりきりでとぼとぼとやってきたことがある。父は、と問うと、まだ、とだけ答えて、叔父はそのままそこにすわりこんでしまった。なるほど、『空白』というのはこういうことなのだろうと、香月はなんとなく理解した。
父がやってきたのはそれからずいぶんと経ってからのことで、ただ思いの強さでのみこの草原へと足を踏み入れた父は、叔父を見つけるや否や草を揺らす風よりも早くこちらへと駆け寄ってきた。
――時間も、神も、愛しい人も、なにひとつとしてその空白を埋められるものではない。父にとってのその空白を埋めるものの元へ、ただ一直線に。
そうして二人は揃って、神の回す輪廻へと旅立った。次の人生でも彼らはふたつに分かたれるのか、それともひとりの独立した人になるのか、……どちらかといえば、二つになるものたちの運命は、もうずっと決まり切って二つになるような気がしたけれど。
叔父と同じようにその場にすわりこんで、此岸――いや、今や自分のいる方が此岸なのだから、あちらは彼岸になるのだろうか――をぼんやりとながめる。いまだいとこの影すら見えぬあちら側の陽炎に、香月はほぅとためいきをついた。
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