母がより可愛がったのは、妹だった。父がより気にかけたのは、妹だった。叔母がより叱ったのは、妹だった。叔父がより笑いかけたのは、妹だった。
 真実僕のためにいてくれたのは、従妹だけだった。

 「時々ね、……絞め殺したくなる」
 なんの力もない妹のこと、その辺りを漂う精霊たちに一言告げれば、それだけで彼女は跡形もなく消えてしまうにちがいない。それこそ自分が手を汚す必要もない。
 けれどもあえて、この手を汚してみたいとも思う。品行方正に、優秀に生きることを義務づけられたこの手が妹を縊り殺す場面をシミュレーションすることは、ひどく自分をおだやかにさせる。あるいは、腹を割いて幼い臓器を全部掻き出してやっても素晴らしいと思う。祝詞を紡ぐこの口が、本来供えた獣の牙を行使する空想も、やはり自分を微笑ませる類のものだ。
 明かしてしまえば気狂いだと、あるいは鬼子だと忌まれるだろう。けれども自分は知っている。本当のところ、けだものと人の入り交じった自分たちなのだから、そういった狂気を併せ持たないはずはないのだと。
 背後からぽつりと、いっそ笑いさえ含んだ兄の声に、妹は不思議そうに振り返る。そのしぐさの、なんとあどけなく無防備なことか。けだものはお前のすぐ近くにいるんだよ。例えば、そう、この兄さえもけだものだ。
 お兄ちゃん、と舌足らずに呼びかけて来るものだから、どうにもふぅっと魔が差してくる。それはおそらくは一秒の何百分の一とか何千分の一とかの時間にすぎなかったのだろうけれど、衝動が妹の首を絞めるには十分な時間ではあった。微笑う。首に手をかけて、ぎゅっと。
 僕は妹の、

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