初めて出会った時からずっと、ひとりきりで歌をうたっている。
学校にいても家にいても、どころか友達と映画やモールに行っていてさえ、気づくと指先が単調なリズムを打っている。何それ、いつから、とみんな聞くけれど、思い出してみればもうそれはずっと前、たしか養父に引き取られた直後辺りからのくせだったように思う。
たん、たたん、たん、た。
別にこのリズムに意味があるわけではなくて、手についてしまっただけの話だ。けれども気づけば合わせて、なんのともつかないメロディを口ずさんでいる自分がいたりして、それも妙な話ではある。
これは歌なのだと気づいたのは、なんだか少し痛いような痒いような、それでいながら幸せな感情とともに養父を見つめるようになった――つまり、十六の誕生日を迎えたころだっただろうか。
単調なリズムの、どうしても止めることのできない歌。その歌はとても不思議なところがあって、養父が笑ってくれたりなにかうれしいことを言ってくれたりすると、とたんに速いリズムの、軽い音になる。そんな時はまるで彼もどこかでこの歌を奏でているのではと、あらぬことを思ってしまうくらいだ。
他の人もそうなのかなぁ、とぼんやり考えて、ある日一番親しい友達に聞いてみた。そんなふうになることはないか、と。
「それ、恋って言うんだと思うけど」
あっさりと単純明快な、それでいながら承伏しがたいような答えをくれた彼女にはそんなことないと言ったけれど、後から考えてみてどうにもすとんと納得してしまった。なるほど、養父が笑うから、この歌が楽しげになるのだと――それが恋以外の、一体なんだというのだろう。
ああ、恋ってそんなものだったんだと、理解したのは十六の夏だった。
学校にいても家にいても、どころか友達と映画やモールに行っていてさえ、気づくと指先が単調なリズムを打っている。何それ、いつから、とみんな聞くけれど、思い出してみればもうそれはずっと前、たしか養父に引き取られた直後辺りからのくせだったように思う。
たん、たたん、たん、た。
別にこのリズムに意味があるわけではなくて、手についてしまっただけの話だ。けれども気づけば合わせて、なんのともつかないメロディを口ずさんでいる自分がいたりして、それも妙な話ではある。
これは歌なのだと気づいたのは、なんだか少し痛いような痒いような、それでいながら幸せな感情とともに養父を見つめるようになった――つまり、十六の誕生日を迎えたころだっただろうか。
単調なリズムの、どうしても止めることのできない歌。その歌はとても不思議なところがあって、養父が笑ってくれたりなにかうれしいことを言ってくれたりすると、とたんに速いリズムの、軽い音になる。そんな時はまるで彼もどこかでこの歌を奏でているのではと、あらぬことを思ってしまうくらいだ。
他の人もそうなのかなぁ、とぼんやり考えて、ある日一番親しい友達に聞いてみた。そんなふうになることはないか、と。
「それ、恋って言うんだと思うけど」
あっさりと単純明快な、それでいながら承伏しがたいような答えをくれた彼女にはそんなことないと言ったけれど、後から考えてみてどうにもすとんと納得してしまった。なるほど、養父が笑うから、この歌が楽しげになるのだと――それが恋以外の、一体なんだというのだろう。
ああ、恋ってそんなものだったんだと、理解したのは十六の夏だった。
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