似たもの親子。
2004年7月1日 アクア=エリアス(?) 自分以外の相手というものには、いくつかのラベルをつけることにしている。例えば守るべき人たち、頼ってもかまわない人たち。
ただ、父。己が母よりも強く引いたであろう血の親族に関してだけは、どうしてもそのラベルの種類がわからないでいる。
守るべきものとは明らかにちがう。だが、頼ってもかまわないのかとじっくり考えてみると、それもどうもちがうような気がした。
特異な人だ。自分の父ながら、そう思う。
「……氷河ー?」
村の最奥、神殿のさらに奥まった一画で、さんさんと降り注ぐ陽光にだらりと伸びきったネコのような姿で昼寝をしていたはずの父が、不意に薄く目を開いて笑った。見ていたことに気づかれたのだろうか。聡い人だ。
「何、父さん」
気のないふりをして返事をすると、父はのそのそと起き上がってこちらに這い寄り、ぽさりと膝の上に頭を乗せてきた。正直、重たいし男、しかも実の父親などにこんな真似をされても暑苦しいだけなのだが、氷河はちょっと眉を跳ね上げただけで何も言わなかった。
ごろごろとのどでも鳴らしかねない様子の父は、なんだかうれしそうだ。そう、まるで子どもがお気に入りの玩具を見つけた時のような――
「お前、だんだん羽水に似てくるね。なんでだろうなぁ」
「叔父さんに? 僕が?」
うんそう、と父は寝転んだまま、器用に氷河の頭をなでた。彼は家族、分けても息子と娘を溺愛していると言っていい。ただし、
「羽水と氷呼はあんまり似てないんだけど。ホントになんでだろうなぁ……羽水がもっと強かったら、こんな感じなのかなぁ」
父の一番大切なものは、母と結婚する前もしてからも、そして子どもが二人も生まれてなお、氷河の叔父でしかない。そして、叔父の一番大切なものもまた、父なのだ。
例えて言うのなら、氷河と従妹のようなものなのだろう。自分たちは親友で、お互いが一番大切だ。それはきっとこれから先、それぞれに好きな人ができても変わらない。
子が親の血を引くのは当たり前の話だが、どうも依存症のラベルまで引き継いでしまったらしい。そんなもの、客観的に見てみればなによりもわずらわしいものでしかないのに。
けれど、とひょこりと顔を出した叔父に連れられて、やけに楽しそうに外に出てゆく父を見やりながら、氷河は思う。
この厄介な血は自分があまり似ていないあの人の息子であるという証だから、きっと尊ぶべきなのだ。それに、大切なものが、何に変えても守りたいと思うほどに大切なものがあるということは、それほど悪い話ではないように思えた。
「……僕は叔父さんじゃなくて、父さんに似たんだと思うけどね」
ためいきをついて、氷河は日なたにごろりと横になった。
以来父のおもかげは、いつでも依存症というラベルを貼って氷河の心の中にある。
ただ、父。己が母よりも強く引いたであろう血の親族に関してだけは、どうしてもそのラベルの種類がわからないでいる。
守るべきものとは明らかにちがう。だが、頼ってもかまわないのかとじっくり考えてみると、それもどうもちがうような気がした。
特異な人だ。自分の父ながら、そう思う。
「……氷河ー?」
村の最奥、神殿のさらに奥まった一画で、さんさんと降り注ぐ陽光にだらりと伸びきったネコのような姿で昼寝をしていたはずの父が、不意に薄く目を開いて笑った。見ていたことに気づかれたのだろうか。聡い人だ。
「何、父さん」
気のないふりをして返事をすると、父はのそのそと起き上がってこちらに這い寄り、ぽさりと膝の上に頭を乗せてきた。正直、重たいし男、しかも実の父親などにこんな真似をされても暑苦しいだけなのだが、氷河はちょっと眉を跳ね上げただけで何も言わなかった。
ごろごろとのどでも鳴らしかねない様子の父は、なんだかうれしそうだ。そう、まるで子どもがお気に入りの玩具を見つけた時のような――
「お前、だんだん羽水に似てくるね。なんでだろうなぁ」
「叔父さんに? 僕が?」
うんそう、と父は寝転んだまま、器用に氷河の頭をなでた。彼は家族、分けても息子と娘を溺愛していると言っていい。ただし、
「羽水と氷呼はあんまり似てないんだけど。ホントになんでだろうなぁ……羽水がもっと強かったら、こんな感じなのかなぁ」
父の一番大切なものは、母と結婚する前もしてからも、そして子どもが二人も生まれてなお、氷河の叔父でしかない。そして、叔父の一番大切なものもまた、父なのだ。
例えて言うのなら、氷河と従妹のようなものなのだろう。自分たちは親友で、お互いが一番大切だ。それはきっとこれから先、それぞれに好きな人ができても変わらない。
子が親の血を引くのは当たり前の話だが、どうも依存症のラベルまで引き継いでしまったらしい。そんなもの、客観的に見てみればなによりもわずらわしいものでしかないのに。
けれど、とひょこりと顔を出した叔父に連れられて、やけに楽しそうに外に出てゆく父を見やりながら、氷河は思う。
この厄介な血は自分があまり似ていないあの人の息子であるという証だから、きっと尊ぶべきなのだ。それに、大切なものが、何に変えても守りたいと思うほどに大切なものがあるということは、それほど悪い話ではないように思えた。
「……僕は叔父さんじゃなくて、父さんに似たんだと思うけどね」
ためいきをついて、氷河は日なたにごろりと横になった。
以来父のおもかげは、いつでも依存症というラベルを貼って氷河の心の中にある。
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