恋と愛は違う。その言葉を、教えてくれたのは君だった。

 例えば親友が死ぬことになったからといって、これほど取り乱しはしなかっただろう。ただ、自分もともに逝けたらいいと、それだけは思うけれど、彼を生に縛りつけておきたいとは思わない。
 ああ、だからつまり。やはり妻に抱く感情は、これは恋なのだと、羽水はようやく思い至って少し自分が間抜けに感じられた。
 それにしても、どうしていまさらそんなことを理解するのだろう。まさしくこの感情を向けるべき相手から、つい今し方、もうすぐ死ぬんだと打ち明けられたばかりなのに。
「病気らしい。よくわからないけど」
「どのくらい?」
「さぁ……半年、くらいかな」
 よくわからない、と妻は妙に明るく笑った。いっそ白々しいと思った。自分が死んでしまうことを知っているのに、どうしてこんなにもきれいな顔で笑うのだろう。
 たまらずに生きてくれと懇願したら、妻は目を見開いて、そんなことを言われると思わなかったとこまったように眉をひそめた。そりゃそうだ、今までそんなことを言ったことはなかったし、これからも言うつもりはない。言ってしまったのは、抱えるものが恋でしかないからだ。
 馬鹿げた話だ。子どもを二人も持って、一人は死んでしまって一人は自立して、ようやくこれから知ってゆくことがもっとあったはずだった。それなのに妻は死んでしまうという。自分はいまさら、彼女に恋していたことに気づく。
 生きて、生きて、生きて、……生きて。どれほど絶叫したところで、自分の手の中になす術がないことを知っていた。

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