約束を、せめて半分でいい、果たすことを許してほしい。

 この上裏切るつもりなど、ひとかけらもありはしなかった。ただただこの身を彼女のためにだけ役立てようと、そう思ったことは事実だった。
 けれど、その方法がわからない。王族殺しと罵られ、元いた故国を裏切ったと疎まれ、仕事のひとつも回してはもらえない。日がな一日歩き回る宮廷では、あちこちでいわれのない侮蔑までも受けた。
 何故とは言わない。浴びせられる罵倒にふさわしいだけのふるまいをしたのだから。ああ、だが彼らはこの身とて人間であることを、忘れているのではあるまいか。心臓にひとつひとつ刻まれた悪口のたぐいは、一日経るごとに膿んで腐り、もはや真っ当な思考回路を成立させることさえむずかしい。
 自分のことを、貴様だけは許さないと言い放った男までもが、今ではこの状況を憐れんでいることを知っている。正義感の強い、公明正大な男だ。すくなくともなんらかの仕事に使われるだけの価値のある人間が、なにひとつとしてできないでいることに我慢がならないのだろう。
 いつしか再び死を願うようになっていた。這い蹲って生きると誓ったことさえも忘れて、安易な死の方向へと流されてしまいたかった。この首ひとつで犯した罪が償えるというのなら、これほど安価な代償もあるまいに。
 そんな折だった。東部の国境にかつて忠誠を誓っていた国が侵攻し、戦争が始まったのは。

 ぜひ、と頭を垂れると、朝の御前会議場がざわめいた。無理もない、誰もが忌避する戦場へ、真っ先にそれもすすんで赴こうというのだから、ざわめきの半分はおどろきで、半分は安堵だったのだろう。死にたがりの王族殺しが立候補したからには、女王は彼をその捨て駒役に任命するにちがいないと。
 けれども予想外なことに、女王はいつまで経ってもうなずかなかった。彼女はまるで彼の言葉を聞かなかったかのように、立ち上がり、重々しくもきっぱりとした声音で宣言した。
「親征を行います」
 意外すぎる言葉に思わず顔を上げれば、思慮を深く宿したブルーアイにぶつかった。死なせはしない。すぐにそらされたその視線が、そう囁いたように思えた。
 ひとりきり、この国の果てで戦って、あなたのために死ぬことも許されないのかと絶望した。いまさらながら、女王の聡明さをひどく憎々しく思った。

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