いつか辿り着いたら。
2004年6月9日 交点ゼロ未満 それはまるで運命のようだったと、見知らぬ顔をした女が言う。少女のカラを脱皮したいきものは、まばたきする間もなく手の届かない場所へと歩き出していた。
こんな女は知らないと、時間という摂理を否定したい本能が泣き喚いた。だがお前は知っているだろうと、冷酷に事実を突きつける理性があった。否定することのできない、けれども受け入れることも恐ろしすぎてできないことがらが、心臓を食い破って血管を走り、さながら数十マイルを走り抜いた後のような息切れをダニエルにもたらした。
青ざめて立ち尽くしながら、答えの知れた問いを繰り返す。この女は、誰だ――夢見るように、否、実際夢見て微笑う、かつて大切にこの手で守った少女の面影を、いまだ強く残すこの女は!
「運命だと思ってた。ずっと前から」
つたない英語ときり、と話し相手を見つめる目を、知っていた。それだけは何年経っても変わらないのだと、理解してしまえば少女と女を重ね合わせることなど、むずかしくはない程度には。
その英語はもっと昔からずっとうまかったんだろう? その目をもっと昔からずっとそらしてしまいたかったんだろう?
二つの問いが頭に浮かんでしまえば、すとんと事実は胸に落ちた。
「俺は運命は信じない。俺が信じるのは――俺だ」
知ってるだろう、と水を向けると、女はこくりとうなずいた。
「いい。わたしが、そう思ってただけだから」
どうしてなのだろう、そんなところだけはあどけなく、かつてのままの少女を思い出させた。あのカラに閉じこもっていることはできなかったのか。できなかった。知ってはいても、思わずにはいられなかった。
そこにいてさえくれれば、運命を信じさせてやることもできたのだけれど。
「お前は我が侭なんだよ、カタリナ」
それも知っていた、と女はうなずいた。
遙か先を行く彼女を引きずり、元の位置にもどすことはできないが、走って追い抜くことはできた。むしろ走ることこそが、あの日あの場所で定められたことがらなのかもしれなかった。
こんな女は知らないと、時間という摂理を否定したい本能が泣き喚いた。だがお前は知っているだろうと、冷酷に事実を突きつける理性があった。否定することのできない、けれども受け入れることも恐ろしすぎてできないことがらが、心臓を食い破って血管を走り、さながら数十マイルを走り抜いた後のような息切れをダニエルにもたらした。
青ざめて立ち尽くしながら、答えの知れた問いを繰り返す。この女は、誰だ――夢見るように、否、実際夢見て微笑う、かつて大切にこの手で守った少女の面影を、いまだ強く残すこの女は!
「運命だと思ってた。ずっと前から」
つたない英語ときり、と話し相手を見つめる目を、知っていた。それだけは何年経っても変わらないのだと、理解してしまえば少女と女を重ね合わせることなど、むずかしくはない程度には。
その英語はもっと昔からずっとうまかったんだろう? その目をもっと昔からずっとそらしてしまいたかったんだろう?
二つの問いが頭に浮かんでしまえば、すとんと事実は胸に落ちた。
「俺は運命は信じない。俺が信じるのは――俺だ」
知ってるだろう、と水を向けると、女はこくりとうなずいた。
「いい。わたしが、そう思ってただけだから」
どうしてなのだろう、そんなところだけはあどけなく、かつてのままの少女を思い出させた。あのカラに閉じこもっていることはできなかったのか。できなかった。知ってはいても、思わずにはいられなかった。
そこにいてさえくれれば、運命を信じさせてやることもできたのだけれど。
「お前は我が侭なんだよ、カタリナ」
それも知っていた、と女はうなずいた。
遙か先を行く彼女を引きずり、元の位置にもどすことはできないが、走って追い抜くことはできた。むしろ走ることこそが、あの日あの場所で定められたことがらなのかもしれなかった。
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