初めから、俺はあなただけのものだった。
国へもどりたいのです、と吐いた王女の心境は、いかばかりだったのだろう。そもそも、何を考えてその言葉を男の前で吐いたのだろう。彼は――どれだけ彼がそうではないと自身に嘘を重ねたところで、王女の監視役であるに過ぎないのに。
もどりたい、そう言われてもどりましょうと言える立場であったなら、どれほど救われただろうか。王女の国の騎士であったらと、そこまで傲慢なことを願いはしない。ただ、その身がなにひとつとして抱えることのない、くだらないものであったならと、それだけを願っていた。
なにを答えることもできずに立ち尽くし、息を飲んでいると、王女はつ、と顔を上げた。男の輪郭を正確にたどることのできないブルーアイが虚空を見つめ、わかっていますと囁いた。
「あなたに願う方がまちがっているのでしょう。けれども……わたくしは、愚かな女なのです」
はらりと視界を失った目が涙をこぼし、そうして次にはそのことを恥じるかのように、王女はそっと指先で目元をぬぐった。その涙をぬぐいたいと思ったのは、もっと初めのころからだったのだが、結局望みは叶えられないまま今に至っている。
「お願いです、わたくしとともに……あの国へ、帰ってください」
あてどなく伸ばされた手が違わず自身の手に触れた時、裏切りは許されないのだと知った。
「――承知、しました」
たったひとつ命じてくれればそれだけで、あなたの足下にも這い蹲ろう。いや、なに。それはなにも忠誠を誓ったこの瞬間からではない。一年前、まだ誇り高く聡明なだけだったあなたに出会った時からずっと、この身はあなたのためにあった。
国へもどりたいのです、と吐いた王女の心境は、いかばかりだったのだろう。そもそも、何を考えてその言葉を男の前で吐いたのだろう。彼は――どれだけ彼がそうではないと自身に嘘を重ねたところで、王女の監視役であるに過ぎないのに。
もどりたい、そう言われてもどりましょうと言える立場であったなら、どれほど救われただろうか。王女の国の騎士であったらと、そこまで傲慢なことを願いはしない。ただ、その身がなにひとつとして抱えることのない、くだらないものであったならと、それだけを願っていた。
なにを答えることもできずに立ち尽くし、息を飲んでいると、王女はつ、と顔を上げた。男の輪郭を正確にたどることのできないブルーアイが虚空を見つめ、わかっていますと囁いた。
「あなたに願う方がまちがっているのでしょう。けれども……わたくしは、愚かな女なのです」
はらりと視界を失った目が涙をこぼし、そうして次にはそのことを恥じるかのように、王女はそっと指先で目元をぬぐった。その涙をぬぐいたいと思ったのは、もっと初めのころからだったのだが、結局望みは叶えられないまま今に至っている。
「お願いです、わたくしとともに……あの国へ、帰ってください」
あてどなく伸ばされた手が違わず自身の手に触れた時、裏切りは許されないのだと知った。
「――承知、しました」
たったひとつ命じてくれればそれだけで、あなたの足下にも這い蹲ろう。いや、なに。それはなにも忠誠を誓ったこの瞬間からではない。一年前、まだ誇り高く聡明なだけだったあなたに出会った時からずっと、この身はあなたのためにあった。
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