Give me pure something to burn.
2004年5月31日 長編断片 あなたを太陽とは呼ばない。むしろこの身を焼き尽くす炎であってくれたなら、それがなによりも喜ばしい。
天気の良い日に広い庭を散策することが、最近の彼女の日課だ。目が見えないものだからあちこちにぶつかりそうになったり転びそうになったり、果ては藪の中に足を踏み入れそうになったりするから、すすんで護衛を引き受けた。
危ないですから、と手を差し出してエスコートしようとすると、ためらいがちに伸ばされてくる白い手がとても好きだった。その手を守る資格などありはしないと知っていながら、なおそうしたうつくしい行為にあこがれるほどに。
そうして二人で芝生を踏み、きれいに刈り込まれた木々を抜けて小径の清楚な花々の香りを感じているこの瞬間で時が止まってしまえばいいと、一体何度思ったことだろう。愚かな願いだ。叶えられるはずもなく、よしんば叶えられたとして、聡明な彼女はほどなく欺瞞に気づくだろうに。
暗い考えをごまかすように、なぜいつもこんなふうに庭を歩き回るのかと問うたことがある。目が見えないのだから、庭師が丹精こめたこの庭も、彼女にとっては意味などないだろうに。
「あなたの手が、わたくしはとても好きです。あたたかくて……日の光と、同じ温度をしています」
小川にかけられた石橋の上で、彼の手を取ったまま彼女は笑った。
「でも、わたくしが城内にいると、他にも人がいるからでしょう、ちっともあなたはわたくしの傍にいてはくれません。ですからこうして、」
ぐ、と思ったよりも強い力で手を引きよせられ、相手が相手だけに抗うこともできないまま、おとなしく――けれどもとてつもない困惑をともなって――一歩彼女の傍に寄る。
「傍にいるためには、わたくしにはこの時間が必要なのです」
ああ、あどけないひと。あなたは俺の手を日の光のようだと言う。けれどこの手はそれほどきれいではない。
早く真実に気づいて、そうして混じり気のないあなたの炎で、あなたが太陽と呼んだ俺を滅ぼしてしまってくれればいい。唯一願うことはそれだけなのに。
天気の良い日に広い庭を散策することが、最近の彼女の日課だ。目が見えないものだからあちこちにぶつかりそうになったり転びそうになったり、果ては藪の中に足を踏み入れそうになったりするから、すすんで護衛を引き受けた。
危ないですから、と手を差し出してエスコートしようとすると、ためらいがちに伸ばされてくる白い手がとても好きだった。その手を守る資格などありはしないと知っていながら、なおそうしたうつくしい行為にあこがれるほどに。
そうして二人で芝生を踏み、きれいに刈り込まれた木々を抜けて小径の清楚な花々の香りを感じているこの瞬間で時が止まってしまえばいいと、一体何度思ったことだろう。愚かな願いだ。叶えられるはずもなく、よしんば叶えられたとして、聡明な彼女はほどなく欺瞞に気づくだろうに。
暗い考えをごまかすように、なぜいつもこんなふうに庭を歩き回るのかと問うたことがある。目が見えないのだから、庭師が丹精こめたこの庭も、彼女にとっては意味などないだろうに。
「あなたの手が、わたくしはとても好きです。あたたかくて……日の光と、同じ温度をしています」
小川にかけられた石橋の上で、彼の手を取ったまま彼女は笑った。
「でも、わたくしが城内にいると、他にも人がいるからでしょう、ちっともあなたはわたくしの傍にいてはくれません。ですからこうして、」
ぐ、と思ったよりも強い力で手を引きよせられ、相手が相手だけに抗うこともできないまま、おとなしく――けれどもとてつもない困惑をともなって――一歩彼女の傍に寄る。
「傍にいるためには、わたくしにはこの時間が必要なのです」
ああ、あどけないひと。あなたは俺の手を日の光のようだと言う。けれどこの手はそれほどきれいではない。
早く真実に気づいて、そうして混じり気のないあなたの炎で、あなたが太陽と呼んだ俺を滅ぼしてしまってくれればいい。唯一願うことはそれだけなのに。
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