馬鹿みたいな夢を見た。

 久しぶりに訪ねるのだからと、たくさんのみやげもの――それは両親や彼女の家族から頼まれたものも含めて、実に一抱えほどになってしまった――を持って行くと、家の近くの草原に葉月が迎えに出ていた。異種族同士の婚姻で生まれた子どもには性別がないけれど、十四歳になった葉月はもうずいぶんと大きくなった。
 葉月、と呼んで手をふってやれば、甘えてくることはないけれども嬉しそうな顔を見せて、子どもはこちらに走ってきた。
「母さんがいつまで待たせるんだって言ってた。父さんももう帰ってるし」
「香月はちょっと短気だからね。まだ約束の時間より早いのにさ」
 笑いながら二人で歩き、途中でせっかくだからと月見草の花を摘んだりして、だから結局家に辿り着いたのはもう約束の時間を数分過ぎた頃だった。香月はすでに表で二人を待っていて、氷河の姿が見えたとたん、遅いと雷を落とした。
 まるで子どものように――いや、片方は本当に子どもなのだが――しゅんとうなだれて叱られていると、香月の後ろから彼女の夫、キールが顔を出してもういいじゃないかとお小言を止めてくれた。この時ほどこの人間の存在をありがたく思ったことはなかったけれど、そういう失礼なことは心に留めておくことにする。
 こぎれいに片付けられた家の中、託されたみやげものを広げ、食事をして、他愛もない話をする。キールと葉月は会話に加わることはあまりなかったけれど、そんなことも気にならないほどに、香月との会話は弾んだ。話すべきことはいくらでもあったのだ、だって自分たちは、毎日一緒にすごすのがあるべき本当の姿なのだから。
 もう夕方も遅くなって、そろそろ空が暗くなりかけるころ、ようやく帰途につくことにした。今日中に村にもどって、香月とその家族が元気で幸せそうだったことを、たくさんの人に報告しなければならなかった。
 それじゃあ、と手を上げる自分に、彼女はほほえんで、ねぇ、と声をかけた。
「いつまでもこんなふうにできたらいいね。そうしたら幸せなのに」
 まるでこの日常が明日にも終わってしまうようなことを言う香月に、少し目を見開いておどろいてみせてから、なんでそんなことを言うんだと笑った。
「終わるわけないよ」
 だって僕らはこんなにも幸せなんだから。

 目覚めて現実を突き付けられて、そうして愚かな自分の願望に気づく。願っていたのだ――香月が死なず、彼女の夫も行方不明になどならず、葉月は大切に育てられ、自分は生きて故郷で暮らしているなどという、もはや叶うはずのない夢を。
 熱のない身体でシーツを掻き抱いて、喘ぐ。夢なんて見たくなかった、と。そういう可能性もあったことを、未来の視点から示唆することはとても辛かった。
 月神様。かつて愛し、愛された神に問いかける。どうして僕らはこんなふうになってしまったんですか。他の選択肢はなかったんですか。
 答えなどないことを、知っていたけれど。

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