この身を追うものが背徳感なのだとしたら、どうして自分は生きているのだ?
たしかに死んだと思ったのだ、闇の中で高らかな死刑実行の合図が響き、銃声とともに鉛の弾で内蔵を射抜かれて。第一その後の記憶などというものもない。
けれども気が付いてみるとベッドの上、ここはどこだとふらつく身体で外に出てみれば、まるでおとぎ話のように花々が咲き乱れる中、なじみの老婆がおや目が覚めたのかと当然のような口を利く。そのままなにひとつとしてわからないまま、今日もこうして生きている。
だらりとテラスに身を投げ出し、おだやかな日の光に照らされながら、早く死ぬべきなのだと考えていた。背後から常に背徳感に追われている。思考は一歩も前に進んではくれず、死へのシミュレートを何千回となく繰り返した。
それなのに、死なせてくれと懇願すると、老婆は言うのだ。その身体はあなたのものではないだろう、と。
ああ、たしかに。手の甲を蟻が這ってゆくのをながめながら、力無く同意する。たしかにこの身体は自分一人のものではない。忠誠を誓ったあのひとのものでもある。けれどもそのひとは、死ねと命じたではないか。老婆、あなたもそれを聞いていただろうに。
すでに自分を追うものが背徳感なのか、それとも単なる焦燥なのか、区別がつかなくなりかけていた。まだこの罪悪が確定できている内に、死んでしまうべきとはわかっているのだけれど。
重苦しいためいきをついて、おだやかな風景から逃れるように目を閉じた。
「――命令です」
ふるえた声を、深く頭を垂れて這いつくばったまま聞いていた。
「死ぬことなど許さない。生きて……恥と罪を晒して、生きてください」
どちらかといえば懇願するような調子だった。許さないと言いながら、すでに罪すらその身に受け入れてしまっているような。
御意、と額を床にこすりつけてつぶやくと、ざわりと周囲のひとびとがざわめいた。寛大な判決に対する驚きだったのだろうけれど、彼らは知らないのだと暗く考える。この身にとって、こうしてのうのうと生きていることがどれほど辛く耐え難いことであるかを。
追うものが背徳感であれば早々に死んでいた。死なずに生き続けたのは、泣き叫びながらこの背を追いかけてくるひとが、他ならぬ彼女だったからだ。
聡明なひとよ。
あなたは一番のつぐないを、この愚かな男に教えてくれた。それはとても辛いことだったけれど。
たしかに死んだと思ったのだ、闇の中で高らかな死刑実行の合図が響き、銃声とともに鉛の弾で内蔵を射抜かれて。第一その後の記憶などというものもない。
けれども気が付いてみるとベッドの上、ここはどこだとふらつく身体で外に出てみれば、まるでおとぎ話のように花々が咲き乱れる中、なじみの老婆がおや目が覚めたのかと当然のような口を利く。そのままなにひとつとしてわからないまま、今日もこうして生きている。
だらりとテラスに身を投げ出し、おだやかな日の光に照らされながら、早く死ぬべきなのだと考えていた。背後から常に背徳感に追われている。思考は一歩も前に進んではくれず、死へのシミュレートを何千回となく繰り返した。
それなのに、死なせてくれと懇願すると、老婆は言うのだ。その身体はあなたのものではないだろう、と。
ああ、たしかに。手の甲を蟻が這ってゆくのをながめながら、力無く同意する。たしかにこの身体は自分一人のものではない。忠誠を誓ったあのひとのものでもある。けれどもそのひとは、死ねと命じたではないか。老婆、あなたもそれを聞いていただろうに。
すでに自分を追うものが背徳感なのか、それとも単なる焦燥なのか、区別がつかなくなりかけていた。まだこの罪悪が確定できている内に、死んでしまうべきとはわかっているのだけれど。
重苦しいためいきをついて、おだやかな風景から逃れるように目を閉じた。
「――命令です」
ふるえた声を、深く頭を垂れて這いつくばったまま聞いていた。
「死ぬことなど許さない。生きて……恥と罪を晒して、生きてください」
どちらかといえば懇願するような調子だった。許さないと言いながら、すでに罪すらその身に受け入れてしまっているような。
御意、と額を床にこすりつけてつぶやくと、ざわりと周囲のひとびとがざわめいた。寛大な判決に対する驚きだったのだろうけれど、彼らは知らないのだと暗く考える。この身にとって、こうしてのうのうと生きていることがどれほど辛く耐え難いことであるかを。
追うものが背徳感であれば早々に死んでいた。死なずに生き続けたのは、泣き叫びながらこの背を追いかけてくるひとが、他ならぬ彼女だったからだ。
聡明なひとよ。
あなたは一番のつぐないを、この愚かな男に教えてくれた。それはとても辛いことだったけれど。
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