つめたいひと。
2004年5月10日 アクア=エリアス(?) そうと知られることはほとんどなかったが、昔から、自分のものを盗られることが大嫌いだった。手元にあるもの、周りにあるものは自分だけが――百歩ゆずって自分の大事なひとたちだけが――触れるのを許されるのだと、固く信じていた。
独占欲はなにもモノだけにとどまらず、人に関してもそうだった。両親、従妹、親戚。中でも一番他人に触れさせたくなかったのは、同じ日の同じ夜、同じ満月の光を浴びて生まれた親友だった。
たぶん、自分には引け目があったのだろう。崇める神が自分たちに与えてくれた愛を、彼の分までうばいとって生まれてきてしまったという引け目が。
その引け目はたやすく同情になり、同情は友情へ親愛へと発展を遂げ、同時に独占欲もふくらんだ。彼は自分だけを親友にして、ずっと自分のそばにいてくれればいい。そうすれば彼からうばいとった力をもって、守ってやることができるから。
ひどい思い上がりだとわかってはいた。だが、傲慢やエゴを許されてしまう存在が、自分だった。そういうものを、彼にだけ押しつけてはいけない論理がどこにある?
だから表面上は無邪気にじゃれあって、自分たちはいつでもお互いをひそかに切り刻んで生きている。どちらがより深く相手を切り刻んでいるかと言えば――
「僕は羽水が好きだよ。氷呼の次くらいかな」
「俺はお前が嫌いだ、蒼河」
「うわ、ひどいなぁ。二十年来の親友に向けてそういうこと言うんだ?」
「まとわりついてくるのはお前だろ。いい年してうっとおしいんだよ」
「だってかまってくれるの、羽水くらいだしさー」
「蒼河、ひとつ言っておく」
「んー?」
「お前のそういうところが、俺は嫌いなんだ」
この薄汚い独占欲のことなど、彼は百も承知なのだろう。だから自分の大好きな笑顔で、こんなひどいことを言うにちがいない。
それでも手元に大切なものを置いておけるのなら、自尊心くらいはたやすく代償にする覚悟があった。
独占欲はなにもモノだけにとどまらず、人に関してもそうだった。両親、従妹、親戚。中でも一番他人に触れさせたくなかったのは、同じ日の同じ夜、同じ満月の光を浴びて生まれた親友だった。
たぶん、自分には引け目があったのだろう。崇める神が自分たちに与えてくれた愛を、彼の分までうばいとって生まれてきてしまったという引け目が。
その引け目はたやすく同情になり、同情は友情へ親愛へと発展を遂げ、同時に独占欲もふくらんだ。彼は自分だけを親友にして、ずっと自分のそばにいてくれればいい。そうすれば彼からうばいとった力をもって、守ってやることができるから。
ひどい思い上がりだとわかってはいた。だが、傲慢やエゴを許されてしまう存在が、自分だった。そういうものを、彼にだけ押しつけてはいけない論理がどこにある?
だから表面上は無邪気にじゃれあって、自分たちはいつでもお互いをひそかに切り刻んで生きている。どちらがより深く相手を切り刻んでいるかと言えば――
「僕は羽水が好きだよ。氷呼の次くらいかな」
「俺はお前が嫌いだ、蒼河」
「うわ、ひどいなぁ。二十年来の親友に向けてそういうこと言うんだ?」
「まとわりついてくるのはお前だろ。いい年してうっとおしいんだよ」
「だってかまってくれるの、羽水くらいだしさー」
「蒼河、ひとつ言っておく」
「んー?」
「お前のそういうところが、俺は嫌いなんだ」
この薄汚い独占欲のことなど、彼は百も承知なのだろう。だから自分の大好きな笑顔で、こんなひどいことを言うにちがいない。
それでも手元に大切なものを置いておけるのなら、自尊心くらいはたやすく代償にする覚悟があった。
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