彼女に会ったのは八年生の始業式だった。ホームルームのクラスに見慣れない顔がいて、先生――名前は忘れた――が転入生を紹介した。それがカタリナだった。
 あまりうまくない英語でハジメマシテ、とつぶやいた彼女の隣の席が、俺だったのだ。

 で、現在、カタリナは俺のガールフレンドである。告白した記憶もされた記憶もないが、ボールで一緒に踊ったり週末にデートしたりする関係の相手がおたがい他にいない以上、そういうことなんだろう。
 しかし俺は、カタリナが意外にモテることを知っている。キムがこの間告白して、見事に玉砕したのも知っている。カタリナは結構可愛いし、養父というのがどうも相当頭のいい人のようで、賢いのだ。
 その養父というのが意外なクセモノだと、俺はつい最近知った。大体十歳しか年の離れてない養父というのがまずおかしい。しかも養母はいない。ロリコンじゃなかろうかと、紹介された時に俺は真剣に悩んだものだ。もっとも、奴は奴でガールフレンドがいるらしいので、カタリナ狙いという線はほどなくして消えたが。
 それでも俺が時々カタリナの家に行って奴に自分を見せつけるのは、カタリナが奴に対して、異常に過保護だからだ。実は彼女は奴が好きなのではないだろうか。そういうことを邪推するくらいだ。まぁ、彼女は誰にでも優しいからしょうがない。
 ――と、そんなことを考えていると、向こうの方からカタリナが走ってきた。時計を見ると、五分遅刻していた。見る予定の映画にはじゅうぶん間に合うだろう。
 俺は物思いをやめて、ポケットに入ったマジェスタの鍵をさぐった。

 彼女が本当は誰を好きだろうが、別に関係ない。なにしろ結局のところ、カタリナは奴とはそういう仲にはなれないのだ。だから、彼女は俺がもらう。
 そういうふうに考えてしまう自分が、少し嫌いだった。

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