定めではなく。
2004年3月9日 アクア=エリアス(?) 運命だとか、そういうものを信じているわけではない。が、絆というものがあるのだとすれば、それは信じる。
自分と羽水を同じ世界につなぎとめているものは、間違いなく『絆』だったから。
川の様子を見に行く、と言う羽水に、どうせ暇だったのでついてきたのが間違いだった。下流から上流へと延々三時間も歩いて、挙げ句彼はまだ水の中に入って精霊と話をしたり、薬草を摘んだりしている。三月とは言え、まだ水遊びをするには早いと思うのだが。
くぁ、と蒼河はあくびをこぼした。だらしなく一枚岩の上に寝そべって、九本ある尻尾の毛玉取りをしていたのだが、やめた。あまりに暇だったので始めたことだったが、やっている間に虚しくなってきたのだ。
「暇だー、羽水」
耐えきれずにわめくと、親友はうるさそうに振り返って、
「お前は堪え性がないんだろ」
と冷たく言った。それでもようやく水の中から出てくる辺り、彼はひどく幼なじみに甘いということに気付いていない。蒼河はひそかにほくそえんだ。が、そういう腹黒い面は器用に押し隠し、どうでもいいような、だが実のところ昨日からずっと頭の中にあった質問を、羽水に投げてみる。
「なぁ、運命って信じる?」
「ハァ? …蒼河、熱があるなら戻れよ。まだ俺は仕事が終わってないんだからな」
「いや別に熱はないけどさ。そもそも僕はあんまり風邪引かないから」
別に自慢のつもりではなかったのだが、羽水は肩をすくめた。
「健康までお前に取られなくて感謝してるよ」
「そう、だから僕が言いたいのはそこなんだけどさ。僕ら、生まれが同じだろう。なんでこんなに違うかな――色々と」
嫌味ではなかったのだが、どうしてもこの話題を持ち出すと、嫌味っぽくなる。それは蒼河自身もわかっていたし、羽水もまたきちんと蒼河の立場、そして彼自身の立場を理解していた。それで、二人が言い争いになることは、ごくめずらしかった。
羽水はさぁな、と言いながらも、蒼河の方をまっすぐに見つめていた。口元が少し笑っているようだった。
「あえて言うなら絆とか、そういうのじゃないのか。だってこれで俺がお前くらい強かったりとか、お前が俺くらい弱かったら、絶対俺らトモダチじゃないだろうし」
絆、と口の中で数度繰り返して、蒼河は首をかしげた。
「運命、じゃなくて?」
帰るぞ、と甘やかしの羽水があごをしゃくったので、蒼河は岩から地面に飛び降りた。水際を歩く青年が、振り返ってニヤリと笑った。
「月神様に決められたからお前に付き合ってるわけじゃない」
複雑な力関係と家柄を全部無視して我が侭に付き合ってくれる羽水と彼に甘える自分に、なにがしかの説明を付けるとするならば、それはやはり『絆』になるのだろうと、蒼河は妙に納得したものだった。
自分と羽水を同じ世界につなぎとめているものは、間違いなく『絆』だったから。
川の様子を見に行く、と言う羽水に、どうせ暇だったのでついてきたのが間違いだった。下流から上流へと延々三時間も歩いて、挙げ句彼はまだ水の中に入って精霊と話をしたり、薬草を摘んだりしている。三月とは言え、まだ水遊びをするには早いと思うのだが。
くぁ、と蒼河はあくびをこぼした。だらしなく一枚岩の上に寝そべって、九本ある尻尾の毛玉取りをしていたのだが、やめた。あまりに暇だったので始めたことだったが、やっている間に虚しくなってきたのだ。
「暇だー、羽水」
耐えきれずにわめくと、親友はうるさそうに振り返って、
「お前は堪え性がないんだろ」
と冷たく言った。それでもようやく水の中から出てくる辺り、彼はひどく幼なじみに甘いということに気付いていない。蒼河はひそかにほくそえんだ。が、そういう腹黒い面は器用に押し隠し、どうでもいいような、だが実のところ昨日からずっと頭の中にあった質問を、羽水に投げてみる。
「なぁ、運命って信じる?」
「ハァ? …蒼河、熱があるなら戻れよ。まだ俺は仕事が終わってないんだからな」
「いや別に熱はないけどさ。そもそも僕はあんまり風邪引かないから」
別に自慢のつもりではなかったのだが、羽水は肩をすくめた。
「健康までお前に取られなくて感謝してるよ」
「そう、だから僕が言いたいのはそこなんだけどさ。僕ら、生まれが同じだろう。なんでこんなに違うかな――色々と」
嫌味ではなかったのだが、どうしてもこの話題を持ち出すと、嫌味っぽくなる。それは蒼河自身もわかっていたし、羽水もまたきちんと蒼河の立場、そして彼自身の立場を理解していた。それで、二人が言い争いになることは、ごくめずらしかった。
羽水はさぁな、と言いながらも、蒼河の方をまっすぐに見つめていた。口元が少し笑っているようだった。
「あえて言うなら絆とか、そういうのじゃないのか。だってこれで俺がお前くらい強かったりとか、お前が俺くらい弱かったら、絶対俺らトモダチじゃないだろうし」
絆、と口の中で数度繰り返して、蒼河は首をかしげた。
「運命、じゃなくて?」
帰るぞ、と甘やかしの羽水があごをしゃくったので、蒼河は岩から地面に飛び降りた。水際を歩く青年が、振り返ってニヤリと笑った。
「月神様に決められたからお前に付き合ってるわけじゃない」
複雑な力関係と家柄を全部無視して我が侭に付き合ってくれる羽水と彼に甘える自分に、なにがしかの説明を付けるとするならば、それはやはり『絆』になるのだろうと、蒼河は妙に納得したものだった。
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