好きで好きでどうしようもない、その感情だけで胸が熱くてどうにかなってしまいそうなほどに想いを寄せた男が、ごくきまじめに正面に立っていた。カタリナ、と彼が自分を呼んだような気がした。
 ここはどこなのだろう。なんだかとてもふわふわとしていて、気分が良かった。
 けれどもすぐに、そんなことはどうでもよくなってしまった。なぜといって、彼がそっとこちらの頬にふれてきて、その唇を寄せてきたからだった。
 いつも辛辣な批判だとか、あるいは口汚いののしりだとかをこぼす彼の唇は、近くでこうして見てみると薄く、血色があまり良くなかった。いつも健康に悪い生活をしているからなのかもしれないと、ふと思った。
 ごく当然のように彼のキスを受け入れて、彼女は幸せに浸っていた。

 ――はっと目を覚まし、自分が部屋のベッドで寝ていたことに気づいたカタリナは、なんだ夢かと肩を落としたすぐあとに、なんて夢を見るのだろうと赤面した。昨夜の夢が、欲求不満の少年でもあるまいに、あまりに即物的なものだったので。
 うぅ、とうめきながら、シーツに顔をこすりつける。そうしながら、それでもカタリナは思った。あんな出来事が、本当にあればいいのにと。

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