She came to pick him up.
2004年2月14日 長編断片 彼女はその手を差し出した――細く、今は人の血にまみれて赤い、その手を。人間など少し力をこめただけでひねり潰してしまえる、その手を。
「来て」
まさか来ないなどということはないだろう?とでも言いたげに、彼女は傲慢に微笑んだ。差し出した手をくるり、とひねり、そうするとその手には、今度はナイフが乗っていた。アメリカ空軍パイロット御用達、刑事に取り上げられた俺のナイフだった。刃の部分は黒いからよくわからないが、きっと彼女の手と同じく、血にまみれているんだろう。
彼女はそのナイフをぽんっとこちらに放り投げ、窓枠に腰を下ろした。尋問室にはまだひとり、生きている刑事がいたが、彼女はちらりとそちらを見やった。その刑事は、俺にメモを残すことを許してくれた、あのオヤジだった。
「たぶん美味いと思うけど」
「食べたいな。いい?」
「お安いご用で」
俺はナイフを利き手に持ちかえてひらりと身をひるがえし、なんら対処の取れないオヤジの身体を、切り裂いた。胃の少し上辺りから、喉にかけてを逆さに一息で切り上げると、オヤジは一瞬ぎょっとしたような顔をして俺を見つめてから、ごば、と血を吹き出した。頸動脈が切れたんだと、俺はぼうっと考えた。
止めの一刺しを心臓にくれてやり、血にまみれて、俺は背後の彼女を振り返った。
「ま、こんなもんで」
「ありがと。後でキスしてね」
そして彼女はオヤジの喉に、指先を突っ込んで喰らい始めたのだった。
「来て」
まさか来ないなどということはないだろう?とでも言いたげに、彼女は傲慢に微笑んだ。差し出した手をくるり、とひねり、そうするとその手には、今度はナイフが乗っていた。アメリカ空軍パイロット御用達、刑事に取り上げられた俺のナイフだった。刃の部分は黒いからよくわからないが、きっと彼女の手と同じく、血にまみれているんだろう。
彼女はそのナイフをぽんっとこちらに放り投げ、窓枠に腰を下ろした。尋問室にはまだひとり、生きている刑事がいたが、彼女はちらりとそちらを見やった。その刑事は、俺にメモを残すことを許してくれた、あのオヤジだった。
「たぶん美味いと思うけど」
「食べたいな。いい?」
「お安いご用で」
俺はナイフを利き手に持ちかえてひらりと身をひるがえし、なんら対処の取れないオヤジの身体を、切り裂いた。胃の少し上辺りから、喉にかけてを逆さに一息で切り上げると、オヤジは一瞬ぎょっとしたような顔をして俺を見つめてから、ごば、と血を吹き出した。頸動脈が切れたんだと、俺はぼうっと考えた。
止めの一刺しを心臓にくれてやり、血にまみれて、俺は背後の彼女を振り返った。
「ま、こんなもんで」
「ありがと。後でキスしてね」
そして彼女はオヤジの喉に、指先を突っ込んで喰らい始めたのだった。
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