I wish I were God.

2004年2月8日 その他
 もう少し、もう少しでいいんだけれど。
 そう呟いて、私は身体を引きずるように、彼に近付いた。心臓が痛い。どくどく、どくどく、いつもと同じように痛いのに、いつもよりも大きく鳴っているような気がした。
 もういいよ、止まれ。
彼の動かない瞳孔がそう言っているように思えたけれど、私はいつでもこうしてきた。今度だけこの歩みを止めることなど、しはしない。
そう、いつだって私は動かない彼に、死にそうになりながら歩み寄った。

 生肉のマネキン。よくできたアンドロイドって、そういうものだと私は思う。実際私が見送ってきた彼は、いつだって『生肉のマネキン』だった。
 オリジナルの体細胞の一片からDNA情報を採集、二七年という短い時間で螺旋を描くことを止めてしまった彼の、その記憶を全部拾い集める。別の体細胞を育ててできた生肉に、マネキンとなるべく記憶を入れれば、完成。愛しい男の出来上がり。
 やってみれば大したことではなかったし、彼を愛していた。痛む心臓という、生殖的な致命的欠陥ごと私を愛してくれるような男は、他にこの世には見当たりそうになかった。
 ああ、だが――
神様はやはり公平だ。ひとりだけ死人を取り戻そうとした愚かな女に、きちんと罰を与える。

 私はようやく彼の元に辿り着き、見開かれた目をそっと閉ざした。お願いだから目を覚ましてなどと、もう馬鹿みたいに喚く必要性も感じなかった。一度神の領域に足を踏み入れたのなら、抜け出すことなど考えつきもしないように。

 二一人目の『彼』の弔いを済ませると、私は二二回目の培養を始めた――

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