いやそれにしても、とルイス陸軍少将は椅子に身を沈めた。デスクの向こう側で「休め」の姿勢のまま沈黙を保つ青年を、彼は感慨深げに見つめていた。
 青年は眉を跳ね上げたものの、自らその言葉の意味を問うことはなかった。何故ならばそれは不作法なことであり、ルイスよりも階級が下である彼には、そんな真似は考え付きもしなかったからだ。
それでも気にかかるといえばそうであり、一体何が、と問いたい気持ちもあった。
 幸いルイスは、すぐに答えを与えてくれた。

「君は本当にシュレイバーに似ているね」

 それが誰のことを指しているのかはわからなかったが、少なくとも青年にはひとつだけ、その名に覚えがあった。彼の祖母の旧姓が、確かシュレイバーと言ったはずだった。
 青年はかすかに首を傾げた。
 彼の母親は祖母似で、彼は母親似である。だから自分が祖母に似ているというのもなんとなくは理解できたが、普通、大の男に向かって、いくらすでに年老いたとは言え、女に似ていると言うものだろうか。少しばかり不愉快だった。
 ルイスは訝しげな青年に苦笑いを噛み殺し、キャロル、つまり君の祖母のことではないよと釘を差した。

「私の言うシュレイバーは、君の大叔父に当たる人だ。…あいにくと、先の戦争で亡くなられたが」

 意見を求められるように見つめられて、青年は少しためらった後に、大叔父がいたとは初耳でしたと、それだけを控えめに述べた。実際、祖母はそんな話はしてくれていなかった。
 そもそも、兄の存在を覚えていなかったのかもしれない、今は老婆の、小さな少女は。何しろ「先の戦争」は、彼女がまだ十歳になるかならないか、そのころに起こった話だったので。

「大叔父が……自分に似ている、と?」
「そっくりだよ。シュレイバー……ギルバート・シュレイバーと言ったがね、血筋なのかねぇ、彼もやはり金髪に碧の目をしていた」

 溜息。
 青年は、名も知らなかった大叔父を、なんとか頭の中で想像してみようと務めた。
金髪、碧眼。それは彼の血筋によく現れる色だったので、想像に難くはなかった。しかし顔がどうしても思い付かず、気付けば鏡の中に映る自分の顔が、そのままギルバート・シュレイバーとして焼き付いてしまっていた。
 しかしその想像も、存外間違ってはいないのかもしれない。ギルバートの顔を知るルイスが、青年を彼にそっくりだと言うのだし、若くして戦争で死んだのなら、おそらく今の青年と大して変わりのない年であるはずだった。
 物思いに耽っていると、再びルイスがぽつりと呟いた。

「しかし、そうか、それでミス・ヒュープナーが腰を上げる気になったのか……」
「え?」

 唐突に見知った名前を聞いて、青年は思わず声を上げた。

コメント