図書館司書の女。
2003年3月9日「何か、お探しですか」
図書館の、古びた本ばかりが置いてある静かな一角に、男がひとりおりました。
長い間棚の本を目で追う男は、ひどく寂しそうに見えました。
「ええ、本を一冊。…とても好きな本だったんです」
でも無くしてしまって、と男は呟いて、頼りなく微笑みました。
よれよれのトレンチコートをかきよせて、再び棚に目を戻します。
「ゆっくり探してくださいね。
あなたの本は逃げません。あなたをずっと待っています」
だってそれはあなただけの本ですから。
図書館司書はそう言って、カウンターに戻りました。
「あのぅ、これを貸し出ししてほしいんです」
娘がひとり、図書館司書に言いました。
手には絵本を一冊、大事そうに抱えています。
「どうぞ、期間は無期限です。
だってそれはあなただけの本ですから」
良かった、と娘は呟いて、図書館を後にしました。
図書館司書は本を読み始めました。
「…あらイヤだ、これはわたしの本じゃないわ」
世界のどこかにある図書館では、こうして一日が過ぎて行くのです。
図書館の、古びた本ばかりが置いてある静かな一角に、男がひとりおりました。
長い間棚の本を目で追う男は、ひどく寂しそうに見えました。
「ええ、本を一冊。…とても好きな本だったんです」
でも無くしてしまって、と男は呟いて、頼りなく微笑みました。
よれよれのトレンチコートをかきよせて、再び棚に目を戻します。
「ゆっくり探してくださいね。
あなたの本は逃げません。あなたをずっと待っています」
だってそれはあなただけの本ですから。
図書館司書はそう言って、カウンターに戻りました。
「あのぅ、これを貸し出ししてほしいんです」
娘がひとり、図書館司書に言いました。
手には絵本を一冊、大事そうに抱えています。
「どうぞ、期間は無期限です。
だってそれはあなただけの本ですから」
良かった、と娘は呟いて、図書館を後にしました。
図書館司書は本を読み始めました。
「…あらイヤだ、これはわたしの本じゃないわ」
世界のどこかにある図書館では、こうして一日が過ぎて行くのです。
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